本研究は、高齢者が日本の住文化のなかで椅座位をどのような形で自立した生活に結びつけているのかの実態を把握すると共に、高齢者にとって椅座位からの起立動作がどのような生体負荷をもたらすかを看護・人間工学的観点から検討し、高齢者自立支援機器に求められる必要要素の提案をおこなった。 I. 高齢者用生活支援家具の現状とニーズに関する調査 この調査は今後の高齢者用家具の生活支援要素について検討した。その結果、椅子に対する日本人の認識は、住文化様式に大きく影響を受けていた。近年日本人の住スタイルも変化し、生活行為によっては椅座位に変化してきている。今後生活様式の変化に伴って、それらに対応するデザインの展開が望まれる。今後、家具の開発に向けて、高齢者の生活行動の把握はきわめて重要であると考えられる。 II. 基礎実験 1. 体位変換前の「声かけ(事前予告)」の効果に関する実験的検討 この実験により、体位変換の前に「事前予告」を行うことで、あらかじめ交感神経系の活動が、体位変換後の循環調節を予測して準備状態に入っていることが明らかとなった。自らの意志で主体的に運動の方向性を操作できる人間工学的な配慮は、生体負荷を軽減する重要な要素であることが示唆された。 2. 能動起立時における被介護者への生体負荷 この実験により、老人は若者に比べて能動起立と受動起立ともに起立後の交感神経の反応が鈍いことが明らかとなった。また脳循環の変化は、受動起立は能動起立に比べて有意に脳血流の低下がみられ、老人では若者に比べて脳血流の復帰が遅かった。高齢者への介助起立時には、できるだけ本人の力で立ち上がれるような人間工学的な工夫が求められることが示唆された。 III. 起立支援椅子の役割と効果 この実験により、起立介助時にはできるだけ本人の意思による自力参加での起立が、起立後の循環調節への影響を軽減することが明らかにされた。とくに介助椅子での自力レバー操作は、起立後の循環調節を維持するために効果的な役割を果たすことが示唆された。 IV. 看護人間工学的視点からみた自立支援機器への提言 今後の自立支援機器の開発においては、人間・機械系(Man-Machine System)の考え方に立脚した展開が必要である。とくに個別の事情に応えられる機器の柔軟性などは重要な要素となることが考察された。
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