研究概要 |
経済的側面から院内感染防止策を検討するために、院内感染による感染症の検査・治療および感染防止の管理に要する費用を調査するとともに、看護婦の感染防止活動に要する労働時間を調査した。調査対象は、M病院(114床の一般病院)に入院中、MRSAに感染した患者15名と、その患者のケアに携わった数名の看護部職員であった。15名の患者の背景は、年齢が60〜94歳で平均年齢79歳と高齢で、糖尿病,脳血管障害,心疾患などを持つ寝たきりの患者であった。しかも、ほとんどが肺炎の治療目的で入院し、MRSA肺炎を併発した患者であった。感染防止のために使用した消耗品の患者一人あたりの平均費用は、2,070円/日であった。個室隔離の平均日数が75日であったので、M病院の個室料金(1万7,000円/日)と使用した消耗品の費用(2,070円/日)の合計に75日を掛けると、患者一人当たり143万0,250円となった。看護婦が感染防止活動に費やした労働時間は患者一人当たり約90分/日で、それをM病院の看護婦の平均賃金で換算すると約2,214円/日となり、これに75日を掛けると患者一人当たり16万6,050円の経費となった。従って、病院の負担額は、患者一人当たり159万6,300円となった。M病院では、MRSA感染症の患者が一年間に46名発生したので、年間の総経費は7,342万9,800円となる。MRSA肺炎に要した検査・治療費は、患者一人当たり約129万3,225円であったので、年間の総費用は5,948万8,350円となる。以上の結果から、MRSA感染症が医療費を押し上げる要因の一つになっていることがあらためて裏付けられるとともに、MRSA感染者の感染管理には、診療報酬には現れない多くの費用が掛かっており、また、隔離によって通常の個室使用料が得られなくなり、病院経営に大きく影響しているという実態が明らかになった。今後は、高齢者の肺炎患者に対するMRSA感染防止対策を検討していきたい。
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