研究概要 |
空間評価における個人差研究の一環として個人差が大きい高齢者に着目し,高齢者の視覚・聴覚的機能の衰退と空間評価の軸形成との関連を明らかにすることを目的とする。今年度は視覚機能の衰退に焦点化し,評価対象を歩道空間として,面接法による写真エレメントの分類による心理実験を試みた。同時に,コントラスト感度測定,従来の視力検査,片足立ちバランスの測定,および日常的生活状況に関する聞き取り調査を実施した。被験者は70歳以上の男性15名,女性20名,および対照群として大学生30名,計65名である。心理実験のデータは多次元尺度法(MDS)によって評価軸を抽出し,軸ウェイトに基づく分析を行った。 分析の結果得られた知見は以下に要約される。 1. 若年群は70%の被験者が歩道幅の広さを評価の主軸とする。一方高齢者の場合には,視力やコントラスト感度,片足立ちバランスなどにみられる加齢に伴う機能低下を補う働きを持つ歩道の物理的形状(例えばカードレール等),あるいは能力低下に伴って拒絶感が増す物理的形状(例えば路面の凹凸等)を分類の視点とし,歩行行為に関わる不快要因を取り除く方向で評価軸が形成される傾向が認められた。 2. 高齢群の中で,コントラスト感度が高く片足立ちの時間も長い被験者は,歩道幅の広さを分類視点とし,主軸の形成において若年群と類似する傾向を示した。また,コントラスト感度が高く片足立ちの短い被験者は路面の凹凸に注目し,コントラスト感度の低い被験者は車道との仕切りへの注目度が高いことから,高齢者の空間評価の軸形成に影響を及ぼす要因としてコントラスト感度の低下に注目することができる。 今後,高齢者のコントラスト感度低下と空間評価の軸形成との関連をより明らかにしたいと考える。
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