絹フィブロイン、絹セリシンおよび羊毛ケラチンの各タンパク質繊維の微細繊維または再生粉末について、種々の低分子の吸着を系統的に検討した。比較のため、各種ポリペプチドをアミノ酸N-カルボキシ無水物から合成した。 吸着は、(1)水中での色素、(2)気相での有機化合物蒸気、(3)水中のアミノ酸、(4)水中の有機化合物について検討した。 1)「水中での色素の吸着」羊毛と絹の繊維と再生粉末について構造の異なる5種の酸性染料の吸着を検討した結果、羊毛繊維はキューティクル層のため、染料は高温で吸着しやすいが、絹の場合は、吸着の温度効果が少ないことがわかった。色素の構造とタンパク質の構成アミノ酸との相互作用が本質的な因子であると考えた。 2)「気相での有機化合物の吸着」揮発性有機化合物の飽和蒸気に、タンパク質および合成ポリペプチドを曝して、吸着特性の差異を比較した。セリシン、フィブロイン、ケラチンの各タンパク質の吸着量には大きな違いが認められたが、吸着しやすい順に有機化合物を並べた結果(これを、「吸着傾向」とする)には、大きな差異は見られなかった。但し、セリシンのみが、ジクロルベンゼンを吸着することが見られた。7種の合成ポリペプチドに対する8種の有機化合物の吸着傾向には、ポリペプチドのアミノ酸組成が反映されており。吸着傾向から、ポリペプチドのアミノ酸組成の推定可能であった。 3)「水中のアミノ酸の吸着」アミノ酸混合物の水溶液からの吸着を検討した結果、絹フィブロイン粉末および細断繊維のみが、リジンを選択的に吸着することがわかった。一方。ホリグリシン、ポリ(L-アラニン)などは、グルタミン酸やアスパラギン酸を選択的に吸着することがわかった。 4)タンパク質による水中の微量有機化合物の選択的吸着現象が見出された。 「吸着」について、系統的な実験データを集めた結果、多くのことがわかり、主題である選択的吸着剤の開発も幾つかできた。引き続いて、蒸気圧、温度などの効果を含めた物理化学的検討を続けている。
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