本研究では、一時的保育を利用する子の事例的観察と実験場面の母子分離時と再会時の子の行動を比較し、子の情緒的体験を縦断的に解明し、ネガティブな影響を補償する方策について知見を得ることを目的とした。 一時的保育を利用する子の特異的行動として、「泣き」「所有物への執着」「保育者との身体的接触要求」「巣ごもり行動」「自己顕示行動」などが認められた。 子が表出する愛着行動、親和行動、探索行動の潜時から子の情緒的体験を推測するために、母子分離(他者子同室)及び再会場面の行動潜時を比較した。その結果、再会場面の母への愛着行動は、2・3歳児より1歳児で有意に早く表出し、継続時間は、加齢に伴い有意に短縮することから、母子分離による子のストレスは発達に伴い軽減することが明らかになった。一方、母子分離場面における他者への愛着行動の表出は、いずれの年齢でも母に比して有意に遅れた。しかし、他者への愛着行動の表出が認められたことから、母子分離による子のストレスの解消に他者の存在が有効であることが示唆された。親和行動である発声や注視の表出は、個々の行動により異なるだけでなく、母と他者に明確な差異が認められた。子が自らの生活空間を拡大する場合に有用な手立てとなる探索行動の表出は、いずれの年齢でも他者より母が同室する場面の方で有意に早かった。母との同室場面では1歳児より2・3歳児で有意に早く表出し、他者との同室場面では年齢による差異は認められなかった。 以上、事例的観察および実験的場面における子の行動から一時的保育を利用する場合に、子が体験するストレスはかなり強いことが示唆された。これらのストレスの解消には、愛着対象となる人(保育者)と物(子の所有)の存在が重要であり、特に低年齢児の場合は保育の場へ子の日常性の導入を許容することの必要性が示唆された。
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