本研究では、ストレス刺激を妊娠ラットに与え、活動の増加した神経細胞の核そのものを同定することができるc-fos免疫組織化学法を用いて、胎仔ラットの脳への影響について検討した。 実験には、妊娠20日目のラットを用い、腹腔内に細菌内毒素(LPS)を注射し、発熱を発現させる。その後ラットをエーテルで麻酔し、胎仔ラットを取り出す。胎仔ラットを左心室より生理食塩水で潅流し、次いで4%パラホルムアルデハイド含有20mMリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で潅流固定する。脳を取り出し、後固定、ショ糖液で処理した後、ドライアイス粉末で凍結する。10μmの凍結切片を作製し、スライドグラスに貼る。通常のc-fos免疫組織化学の手法により、切片の発色反応を惹起さらる。 その結果、母体へのLPS注射では胎仔脳でc-fos陽性細胞は認められなかった。妊娠末期における母体の発熱反応が抑制されたということに起因している可能性が考えられた。 そこで、その原因を探る目的で、母体の発熱反応抑制反応について研究を進めた。 妊娠末期の母ラットにLPSを投与したが、発熱が抑制された。その時の脳脊髄液中のプロスタグランジンE_2(PGE_2)を測定すると、LPSによる増加が非妊娠ラットと比べて少なかった。さらに、PGE_2合成に関与するシクロオキシナーゼ2(COX-2)の視束前野及びその近傍のくも膜下腔での発現を調べたところ、母ラットの脳において、LPSにより誘導されたCOX-2陽性細胞の数が非妊娠ラットの場合と比べて有意に減少していた。 以上のことから、妊娠末期ラットにおける発熱反応の減弱は、PG産生系の抑制が関与していることが明らかとなった。
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