わが国の産業構造では零細自営層の果たす役割が大きく、伝統的な地場産業集積地域では、これまで、自営業経営者と家族が地域を支える力となってきた。近年の家族構造の変化によって、自営業世帯における生活様式は大きく変容し、これによって地域社会の変容をもたらす側面がみられる。 本研究で事例調査を実施した2つの地区、すなわち、地場産業の備前焼窯元が集積する地域である備前市伊部地区、ならびに、小零細規模の旅館やみやげもの店が集積する地域である金刀比羅宮表参道においても、自営業経営者と家族の生活様式は大きく変容しており、零細な自営業に支えられていた地域社会の変容や衰退をもたらしている。一方で、まちの変化や地域社会の変容が顕在化することによって、自営業の経営状況に深刻な影響をもたらし、家族の生活形態を変容させ、結果的に自営業の継承にも影響を及ぼすといった循環が生じていることが示唆された。しかし、家族の生活様式の変容によって経営者の妻(すなわち、自営業世帯における「女将」)が、従来以上に積極的に経営に参加するようになり、経営面の活性化をもたらし、ひいては地域の活性化の推進役となった事例もみられた。 これらの結果をふまえて、今後、さらに実態調査を重ねて、自営業経営者世帯の生活様式の変容と、これらが地域社会に及ぼす影響について検討することによって、家族の生活様式と地域社会変容のダイナミズムについて明らかにしていきたい。
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