本研究では、伝統的な地場産業の集積地域における零細な自営業世帯の生活実態調査を実施して、家族構造の変化と生活様式の変容の過程を明らかにし、これらと地域社会との相互連関について検討した。わが国の伝統的な地場産業集積地域では、これまで自営業経営者とその家族が地域を支える力となってきたが、近年、自営業世帯における生活様式は大きく変容し、これによって地域社会の変容をもたらしている。事例としてとりあげた伝統的地場産業である備前焼窯元集積地域、門前町である金刀比羅宮表参道について、自営業世帯における営業と家庭生活の双方について実証的に分析した。その結果、伝統的な地場産業の集積地域における自営業経営者とその家族の生活様式は大きく変容しており、零細な自営業に支えられていた地域社会の変容ひいては衰退をもたらしているという実態が明らかにされた。一方で、まちの変化や地域社会の変容が顕在化することによって、自営業の経営状況に深刻な影響をもたらし、家族の生活形態を変容させ、結果的に自営業の継承にも影響を及ぼすといった循環が生じていることが指摘された。自営業経営者とその家族の生活が、自営業の経営を活性化させる方向に変容していくことで、地域の活性化を促す可能性があるというケースが認められたことから、今後は、地域やまちの活性化に向けて、生活者の立場から有効な提言を行うことによって、生産活動と家族の居住機能が共生できる将来像の構築についても考究していく必要がある。今後さらに多様な地域の自営業世帯における生活様式の継承と変化の過程について、生産活動を含む家族の生活全体を視野にいれて把握し、地域社会の変化とのダイナミズムについての理論的検討をすすめることによって、生活を総合的に把握する理論としても精緻化を図ることが、課題として残されている。
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