研究概要 |
ヒト、ウシ、ラットなどの哺乳類の乳汁中には、種々の細胞増殖因子と呼ばれるものが含まれている。ラット乳汁中のEGF量は35-40ng/mlであるが、人工調整乳には全く含まれていないことが報告されている。そこで、乳汁由来のEGFの発達過程における消化・吸収能への生理学役割を解明するために、新しく開発された合成ミルク(EMA)による人工哺育ラットを作成し、EGFを長期投与(4日間、8日間)した場合の、胃内停滞時間と腸管内移動速度への影響の差異、ならびに膜消化酵素であるSucrase活性やS-ImRNA、LPH mRNAなどの測定も行った。 今回の研究では、EMA-EGF添加(100ng/ml)の4日間の人工哺育では、体重増加、尾長にEGF無添加群に比べて、有意な差はみられなかった。更に胃重量、小腸重量、小腸長、小腸のタンパク質量、DNA量にも有意な差は見られなかった。しかしながら、EGF無添加群では血清EGFならびに小腸におけるEGFレベルは有意に減少していた。また、投与期間、投与開始時期、投与量を変えても、胃内停滞時間ならびに腸管内移動速度への影響は観察されなかった。このことは、短期間のEGFの経口投与では、胃内停滞時間ならびに腸管内移動速度への影響は観られなかった結果(篠原未発表データ)と一致する。EGFの皮下投与では、瞬時に血清EGFレベルは通常の6倍に上昇する(篠原)。従って、EGFのin vivoにおける胃内停滞時間ならびに,腸管内移動速度への影響は、非経口的に投与されたEGFによって調節されるものと思われる。また、Sucrase活性やS-ImRNA量にも両群間で差はみられなかった。これらのことから、乳汗由来のEGFは乳児期の消化管において、上皮細胞粘膜の増殖や損傷時の修復に関与しているものと推察される。今回の研究では、TGF-βの長期投与の影響については明確な結果を得るまでには至らなかった。
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