現代社会が表面的に成熟するとともに、人類は安全確保に困難を来すようになって久しい。安全神話の崩壊の中でおきた阪神・淡路大震災を大きな契機に、またも露呈した我が国の脆弱な危機管理を巡る議論が沸騰し、国民の防災に対する認識形成は益々重要な問題となっている。本研究では、防災に関する危機管理の問題解決に応じた消費者教育を家政学に導入する新方策を試み、社会安全に役立つ効果的な方法論の確立をアプローチする。 今年度は、防災活動の促進を目指す啓発や支援を適切に行うために、防災意識や防災活動、防災教育の実態及びそれらの問題点と課題を安全管理の主要素である消費者教育の視点から検討した。この結果、災害時の意思決定には日々の消費者としての意思決定や行動の仕方が大きく影響していることが分かった。防災教育では防災モラトリアムからの脱却、防災リテラシーの育成に加えて、自立した市民としての防災対応の醸成(防災的自立性の高まり)を最終的にはねらいとすべきである。言い換えれば、防災とは求めるところ単なる手段でなく価値観、安全哲学であると考えられ、これは消費者教育の目的と合致するものである。従来から見落とされがちな方策であった被災前後の生活経営を含んだ防災対策を充実し、防災体制を固め、さらに防災論争を深めていく教育の有様を創造しなければならない。このことは、社会の安全構築に大きな実績を上げてきた消費者教育のノウハウと家政学の理念を生かすことによってこそ、充分な効果が得られると推察される。以上のように、今後の「防災に関する教育」には災害についての正しい認識と共に経済的な視点からの教育が必要であることを指摘した。 次年度ではその実現に向け、防災対応を高めるための消費者教育を導入した家政学授業を展開し、フィードバック機能を働かせつつ効果評価に取り組み、安全社会の実現へと発展できる主体形成の方途を探究していく。
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