ラヴォワジエは、アルコール発酵の実験に蔗糖を使っているが、如何にしてこの蔗糖の定量分析を行ったのかを今年度は調査した。彼の手稿や実験ノートを調べた結果によると、蔗糖の分析は1786年から1788年の間に何回か行われたが、成功したものは少ない。初期の分析で定性的に成分元素を確定した後、1787年7月の加熱による不完全な分析結果から、炭素の割合を計算し、残りは水であると結論した。その後、蔗糖による発酵の実験を行い、反応式を 水+蔗糖=エチルアルコール+二酸化炭素とした。この式に質量保存則を適用し、既に決定していたエチルアルコールの成分元素比を使って、蔗糖の成分元素の割合を計算した。この計算結果は、先の結果と食い違ったため、先の結果の方を誤りと考えた。1788年、蔗糖の定量分析をやり直し、今後は硫酸を使って分解する事により、先ず炭素の割合を定めた。続いて4月には酸化水銀を使って、蔗糖を酸化・分解し、還元された水銀の量を測定した。蔗糖の成分元素の計算には、先の炭素の割合を採用している。結局、ここでは実際に成分分析を行うことなく、総では水と二酸化炭素生成に基づいた理論から計算した。こうして彼は、蔗糖は炭素と水の結合であるという考えを変えてしまた。このように、ラヴォワジエは、一見、余り当てにならないような分析データを元に、ある程度の修正を加えながら結果を出しているが、最終的には質量保存則を使うことにより、結果をコントロールしているのである。逆に言えば、このコントロールがあるからこそ、かなりいい加減に見えるようなデータですらあえて使ったと言えよう。
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