第二年度は初年度の成果を引き継ぎ、一層展開させつつも、総括的な検討をおこなうことを目標として取り組み、以下のような新たな知見を得た。 研究代表者の兵藤は、1910年代の原子物理学の発展に大きく寄与したX線散乱の実験的研究の総括的把握をおこなうとともに、それらの実験的研究を支えた実験手段体系、すなわちX線管のみならず、分光装置、電気計などの周辺実験機器の新しさ、その工夫、ならびに実験機器を基礎づける関連産業技術を分析し、その上で、X線の粒子性を示したコンプトン効果がいかに発見されたかを明らかにした。なお、兵藤は現在、電子の波動性を示した物理学実験の手法、その技術的基礎についての研究に取り組み、1920年代の特質を解析しようと努めている。 研究協力者の渋谷は、ドイツの学術制度の特徴を分析し、上からではなく下からの、すなわち科学者の学術団体の自主的な動きが先行し、その後に学術政策が変わるという経緯もあって、研究資金の配分は学術団体に任されたことなどを明らかにした。渋谷はこれに関連する論文を裏面に記載したものとは別にもう一つ準備している。 研究協力者の河村は、日本の1920年代以降の高周波物理技術の発展を中心に調査研究し、一次資料となる貴重な当時の文書そのものを発見するとともに、高周波物理技術の応用としての旧海軍における短波通信研究のあり様を解析し、日本的特質を明らかにした。 上記に記したように、現時的では当初の目標を達してはおらず、今後すみやかに残された調査研究を進め、全体をまとめる予定である。
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