本プロジェクトの研究成果の概要は以下の通りである。 (1) 本プロジェクトの研究対象は、1910-20年代の原子物理学関連の科学実験、ならびにその企業内研究所における新技術の研究開発との連関の具体的あり様である。象徴的にいえば、A.H.Comptonによる光量子説の検証としてのX線散乱の科学実験とその実験装置、およびC.J.DavissonとL.H.GermerならびにG.P.Thomsonによる電子の波動性を検証した科学実験とその実験装置を取りあげて考察した。 (2) そこにおいて注目されることは、企業が技術を有用な製品として開発していく一方で、その企業が提供する技術の基盤の上に、ノーベル賞級の最先端の科学研究が展開されるという、関連性である。 また、本プロジェクトは、欧米各国ならびに日本を含め、それら国々の技術的基盤の比較検討を考察の対象としたが、この点では、GE研究所やベル研究所の研究組織としての先取性にはめざましいものがあり、20世紀におけるアメリカの科学技術の先進的地位はこうした企業内研究所の研究開発を基盤としているといえよう。 (3) 研究協力者の渋谷一夫は、原子物理学の理論面、具体的には1920年代の量子論に見られる物理学者の認識論上の論争を取りあげ、この点について整理をおこなった。研究協力者の河村豊は、電子管技術の応用としての旧日本海軍の高周波技術、すなわちレーダー開発の実状を検討したことを付記しておく。
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