研究概要 |
本研究の目的は,歩行中のつまづきから転倒にいたる動きの実態をバイオメカニクス的にとらえ,転倒防止のための基礎的知見を得ることであった.そのため,歩行中の障害物を回避する動作(またぎ越し動作)を青年および高齢者に行わせ,下肢の動作をバイオメカニクス的に分析した. 健康な青年男性10人および高齢者男性21人に3種の高さ(8,16,24cm)の障害物を自然な速度での歩行中にまたぎ越させ,その動作を2台のVTRカメラで被験者の側方および正面から撮影するとともに,支持脚(左脚)に作用する地面反力を測定した.そして,下肢の関節角度,部分角度,地面反力の変化などを測定し,障害物の高さとこれらの変量との関係を検討するとともに,青年と高齢者の比較を行った. その結果,以下のことが明らかになった. 1.支持脚の鉛直地面反力の変化は,青年群では歩行よりも顕著な2峰性を示し,障害物の高さが増加すると,両ピークとも増加し,谷部が減少する傾向にあった.高齢者群では,青年群と同様の変化を示すものと,谷部が持続するものがみられた.また高齢者では,障害の高さが増加すると,支持時間が増大し,ブレーキ局面から加速局面への移行が遅延する傾向が顕著にみられるようになった. 2.両群とも,障害物の高さが増加すると,大腿の挙上,股および膝関節の屈曲は大きくなる傾向を示した.しかし,高齢者では,障害物を越えて接地に向かう局面で大腿の下降および股および膝関節の伸展が遅延するようになり,中および高い障害物のを越える場合には,接地した後に体幹の前傾が急に大きくなる傾向が顕著に見られた. これらのことから,高齢者では,またぎ越しの後半において身体のコントロールに困難を生じる可能性があること,接地後に体幹の前傾が大きくなり,バランスを崩し易い状況が出現することなどが示唆される.
|