この研究は運動に対する反応の個体差を遺伝子のレベルで解析できる方法を開発することである。これまでの実験で運動による骨格筋肥大を支配する遺伝子は速筋、遅筋で異なることを報告した。すなわち、遅筋の肥大を制御する遺伝子は2個、速筋を支配する遺伝子は5個であった。さらに免疫相当細胞であるマクロファージ欠損マウスを用いた筋トレーニングで筋の肥大は認められなかった。in vitroで、筋細胞そのものの機械的刺激が筋の組織化を誘導した。一般的に運動に対する適応の制御はホルモン、神経、免疫などの系に依存することが知られている。従って骨格筋活動が何らかのシグナルを血液あるいは求心性の神経を介して内分泌系器官、免疫器官や中枢神経系に情報を伝え、それぞれの担当器官から各種のホルモンや免疫担当細胞が導引される。中枢神経からは運動神経を介して骨格筋に情報が伝達される。これら内分泌系、免疫系や神経系の影響を除外し、筋そのものの動くことによる適応機構を探るために、著者らの開発した動的培養法を用いて検討した。この方法は他動的に筋を動かすことによって筋そのものの運動に対する反応・適応機構を観察できるものである。まず実験のはじめとして、in vivoで筋肥大に必須であると考えられた67KDaタンパク質の変化を確認するために実験を行った。その結果、電気泳動法によって67KDaタンパク質は増加することが確認され、さらに抗体を用いたイムノブロット法によっても顕著に筋それ自体の活動で増加することが確認された。このタンパク質は運動の強度に依存し、その量が変化することが明らかになった。今回の実験では明らかに骨格筋そのものが活動することによって筋が特異的なタンパク質合成を行うことが判明した。またin vitroで遺伝子発現から個体差を観察する方法を開発したが、今度はこの実験をもとに様々な骨格筋活動にともなう固有の遺伝子の活動とらえ、in vivoでの筋肥大、筋持久力など筋の適応機構を個体差レベルで解析できるモデルを開発したい。
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