中枢神経細胞の運動性変性予防と回復促進に関する運動処方作りの基礎的研究

1997 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 08680109
• 研究種目: 基盤研究(C)
• 研究機関: 名古屋工業大学
• 研究代表者: 藤墳 規明 名古屋工業大学, 工学部, 教授 (60101268)
• キーワード: ラット海馬体 / 持久的水泳運動 / 細胞外グルコース濃度

研究概要

目的:我々は、これまで、ラットに持久的水泳運動やトレッドミル走をトレーニング形式で負荷すると、組織化学的変性像が海馬体神経細胞に出現し、この像が低酸素や低グルコース暴露時に観察されるものに酷似していること、及びトレーニングに用いた運動の急性負荷が細胞変性の引き金と推察されるc-fos遺伝子の発現や酸素不足を海馬体で誘発することを報告している。本研究では、持久的運動の負荷時とその前後にグルコース濃度をin vivo microdialysis法を用いて経時測定し、細胞変性を誘発すると考えられる運動性低グルコース現象発生の可能性について検討した。方法:実験には9-10週齢のWistar系雄ラット(n=19)を用い3群に分けた。運動には2時間の水泳を採用し、その前後に2時間の安静を課した。なお、ラットに強度の異なる運動を負荷するため、2群にはそれぞれ体重の約4%(10g加重群;n=7)と2%(5g加重群;n=6)に相当する重りを頚部に加重し、残りの1群は無加重群(0g;n=6)とした。海馬体でのグルコース濃度は、2時間の水泳とその前後2時間の安静の計6時間に亙り微小領域の細胞外液を透析法により経時的に回収し、HPLCを介した酵素カラム法により定量した。細胞外液の回収部位は、各ラットの透析膜先端の痕跡を凍結連続切片にて確認したが、全て海馬体内に在り、3群間で極端な部位の片寄りはなかった。グルコース濃度の群内および群間の変化は分散分析により検定した。結果:2時間に亙る運動前のグルコース濃度(100-250μM)は、平均値から見ると、3群ともほぼ近似した値を示した。水泳中の変化を見ると、3群とも安静値に比べ一過性の有意な増大を示した。しかし、ピーク時の出現時間は、3群間で違いがあり10g加重群で水泳開始後10分、5g加重群で50分、無加重群で70分であった。また、ピーク値の比較においては、5g加重群と無加重群で差が無いものの、両者に比べて10g加重群では約倍の高値を示した。一方、ピーク値到達直後の減少経過を水泳後2時間の回復(安静)期を交えて観察すると、10g加重群の減少経過は急激で、水泳中、すでに水泳前の値を下回るまで減少し、回復期においても緩やかではあるが継続的減少傾向を示した。なお、他の2群では減少量が少なく水泳前の安静値をやや上回るかたちで推移した。従って、10g加重群の値は、測定終了時点では他の2群より低値傾向を示した。考察:運動強度に依存したグルコース濃度の一過性上昇は、海馬体神経細胞群での活動亢進を反映し、10g加重群でのクルコース濃度の運動初期からの急激な減少は、酸素分圧の減少と相関するもので、神経細胞変性に繋がるエネルギー源の不足を反映する結果と推察される。

研究成果

• [文献書誌] Taniguchi,K.: "The valine catabolic pathway in human liver : Effect of cirrhosis on enzyme activities" Hepatology. 24. 1395-1398 (1996)
• [文献書誌] Nakai,N: "Effects of aging on the activities of pyruvate dehydrogenase complex and its kinase in rat heart" Life Science. 60. 2309-2314 (1997)
• [文献書誌] Nakai,N: "Activities of liver pyruvate dehydrogenase complex and 3-hydroxyacyl-CoA dehydrogenase in sand rat (PSAMMOMYS OBESUS)" Life Science. 60. 51-55 (1997)
• [文献書誌] Murakami,T.: "Enlargement of glycogen store in rat liver and muscle by fructose-diet intake and exercise training" Journal of Applied Physiology. 82. 772-775 (1997)
• [文献書誌] Kobayashi,R.: "Gender difference in regulateion of branched-chin amino acid catabolism" Biochemical Journal. 327. 449-453 (1997)
• [文献書誌] Fujitsuka,N.: "Expression of immediate early gene followed by a bout of endurance treadmill run in the hippocampal neurons of rats" Abstracts of XXXIII International Congress of Physiological Sciences. 9061-27 (1997)
• [文献書誌] 伊藤文雄編: "クローズアップ臨床栄養学" 名古屋大学出版会, 350 (1998)
• [文献書誌] 今泉和彦・石原昭彦編: "運動生理学実験法" 大修館書店, 300 (1998)