本年度は、(1)高齢者の脚力および有酸素的持久能力の特性を青年との比較から検討すること、(2)膝屈伸運動の運動生理学的特徴を呼吸・循環応答及び筋電図解析から検討することを目的とした。被験者は60歳以上の健康な男性高齢者17名と、体力水準の異なる青年男性17名である。全被験者に自転車エルゴメーターによる最大酸素摂取量、無酸素的作業閾値、心拍数-酸素摂取量関係の測定と、等速性脚伸展運動によるピークトルクとトルクの低下率の測定を行なった。また5名の高齢者に対して、数種のテンポによる膝屈伸運動時の呼吸・循環応答と下肢筋群からの筋電図を測定した。 その結果、高齢者の脚筋力および有酸素的持久能は青年より劣ることは明らかであるが、両群の値の比較から、高齢者のトレーニングの可能性は脚筋力のほうが有酸素的持久能力より大きいことが推察された。次に、膝屈伸運動の運動生理学的特徴としては、膝屈伸運動時の%IIR_<MAX>、%VO2_<MAX>、%iEMG_<MAX>は屈伸回数の増加とともに増え、20回/分の屈伸回数時の%iEMG_<MAX>は約50%に相当することが認められた。この値は一般に用いられる筋パワー・トレーニング負荷設定範囲内の値であり、脚筋力トレーニング負荷として有効であることが示唆された。また、その時の%VO2_<MAX>は60%VO2_<MAX>に相当しており、この値も一般成人の心肺機能の維持向上のための運動強度に相当している。以上のことから、膝屈伸運動は有酸素的持久能および脚筋力の両面に効果が期待できる運動の可能性が推察される。しかし、高齢者自身の感想として膝屈伸運動はかなりきついという主観的・客観的な印象をもったことも事実である。次年度はこのような反省から高齢者の安全面を考慮した膝屈伸運動の負荷設定方法をさらに検討するとともに、そのトレーニング効果についても検討する計画である。
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