本研究は、(1)高齢者の脚筋力および有酸素的持久力特性と簡易体力測定の相互関係を検討し、高齢者の体力・トレーニング効果の簡易評価方法の妥協性を検討すること、(2)高齢者の下肢筋力が立位姿勢保持能力および転倒経験の有無に及ぼす影響を検討すること、(3)膝屈伸運動トレーニングが脚筋力および形態計測に及ぼす影響を調べることを目的とした。全ての実験は60歳以上の健康な高齢者を被験者とした。その結果、以下の知見が得られた。 1)高齢者の等速性膝屈伸展運動時の最大筋力と垂直跳びには高い正の相関が、また最大酸素摂取量と3種のセルフペースによる踏台昇降運動テストから得られた心拍数120bpm時の仕事量との間には負の相関関係が認められた。このことは、高齢者の脚筋力および有酸素的持久能力の簡易評価方法として、垂直跳び、セルフペースによる踏台昇降運動の有用性を示唆するものである。 2)高齢者に立位姿勢で外乱を与えた時の重心動揺距離および応答時間は、転倒未経験者ほど小さく、また足背屈筋力、股関節屈曲可動域との間に有意な相関関係が認められた。このことから、高齢者の立位姿勢保持には下肢の筋力・柔軟性の維持向上が重要であることが示唆された。 3)ゆっくりのペースでの1分間の膝屈伸運動を2セット、週3日、5週間トレーニングした結果、低速時の等速性膝伸展運動においてトルクの増加が認められたが、高速時および屈曲時においては変化は見られなかった。また形態面では体脂肪率は減少し、臀・大腿の周径囲は増加したが有意ではなかった。以上のことから、本研究の処方条件では脚筋力にトレーニングによる有意な効果は認められず、今後被経験者の体力特性、筋の加齢特性もふまえて、さらに処方条件を検討する必要があると思われる。
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