研究概要 |
競技パフォーマンスの変動をもたらす要因として、心身の疲労の他に、注意・覚醒水準を含む生体リズムの周期的変動が関与することが、Helberg等(1973)によって明らかにされてきた。本研究では、競技パフォーマンスを構成する注意能力と、運動パフォーマンスの周期性を明らかにすることにより、選手の効果的なコンディショニング作りの精神生理学的基礎を提供することを目的に行われた。 実験課題として、刺激間間隔3秒の予告反応時間課題を用い、従属変数としては注意機能や覚醒水準を表す誘発脳波であるCNV(contingent negative variation:随伴性陰性変動)を用いた。被験者は、シールドルームの中で、午前9時より午後4時30分まで、30分毎に24試行ずつ16回の予告反応時間課題を行った。CNVは、Fz,F3,F4,Cz,C3,C4,Pz,P3,P4,Oz,T3,T4の頭皮上12部位から単極導出により、時定数5秒の条件で記録された脳波をオンラインでA/D変換(サンプリング周波数200Hz,サンプリング・ポイント1024)し、加算平均(毎回の被験者あたりの加算回数は10-22回)することにより求めた。 その結果、予告反応時間の自己相関関数分析より、先行研究同様、運動パフォーマンスの周期性が90から120分であることが見出され、覚醒中の種々の機能の変動を支配するBRAC(basic rest activity cycle:基礎的休止-活動周期)の周期性の存在を確認し、さらに同様の変動をCNVにおいても確認した。また、各回の試行中における注意水準の変動を表すと考えられる尚早反応について分析した結果、前頭部においてCNVの有意な低下が見出された。以上の結果より、競技能力を構成する運動要因(運動パフォーマンス)の変動と、もう一つの構成要因である心理要因(注意・覚醒水準)との関連性が明らかにされ、競技力に及ぼすBRACの影響を示唆するものであった。
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