2年計画の初年度は、主に英国文献関連資料の収集と整理、データベース化を中心にE-メイル等を利用した情報ネットワークの確立と情報収集を行った。また、英国自体の生涯スポーツ体系に大きな影響を及ぼす教育制度改革の行方やその構造的要因である社会経済的変動に関する専門的知識の供与を教育学、教育社会学、社会学、経済学、政治学等の専門研究者に求めた。 現時点では、英国の生涯スポーツ推進の柱である成人・継続教育のスポーツ部門に教室開設の減少が他の趣味的分野の減少と共にみられ、それと反比例して実務的、資格取得的分野の教室の増設が各カウンシルで顕著にみられる状況にある。教育制度の改革と相俟って、英国では明らかにマイノリティや経済的弱者に対する長期的な福祉政策を切り捨てる傾向がみられ、このことが生涯スポーツのシステムをこれまで支えてきた地方教育当局やスポーツカウンシルのスポーツ政策に対しても影響を及ぼしていると推察される。本来、英国の生涯スポーツ体系は階級社会を前提とする労働者階級へのスポーツ文化の下降現象をどのように保障するのかが大きな課題であったことがデータベース化を通じて、歴史社会的に明らかになりつつある。 一方、わが国の生涯スポーツ体系は、余暇社会・高齢化社会等の産業構造や人口構造の変動を前提とした組織や制度づくりを行っており、英国のような階級的融合は意識されていない。しかし、学校完全5日制や地域社会の再編への構造的変動は、世代間格差や対立に対する新たな世代間融合への必要性を問うている。このようなスポーツの公共性に対する新たな課題と共に、財政的必要性と生涯スポーツの可能性が問い直される状況が生まれていると言えよう。
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