本研究の目的は、英国における教育改革や社会制度の見直しがこれまでの生涯スポーツ体系にどのような制度的変化を与え、実際にどのような影響を及ぼしているかを明らかにすることである。また、その成果をわが国における生涯スポーツの推進体制および政策に適用して歴史社会学的に比較考察し、低成長経済下で予測されるこれからの生涯スポーツの推進体制のあり方について、学校体育部門を含めて明らかにすることである。 初年度は、主に英国関連資料を収集し、データベース化するとともに、英国の社会教育部門のスポーツ関連事業の変化から生涯スポーツ体系の構造的変動の背景およびその実態を明らかにした。また、それとの比較からわが国の生涯スポーツの特徴が単なる実務教育のレベルでとらえられるのではなく、福祉型社会の重要な内容を構成し、その一環として位置づけられることがより一層明らかになった。 2年目には、わが国の生涯スポーツ体系のうち、高等学校と大学の段階における体育の実態と生涯スポーツへの意識、制度、役割について考察した。また、英国については、1988年以降の教育改革の動向と学校体育の変容について主に考察した。その結果、英国では、わが国の昭和30年代前半から高度経済成長期にかけてみられた技術認識学習への偏重と、集団スポーツの重視を通じた社会統合の象徴としてのスポーツの重視といった手段的発想がみられるようになってきている。一方、わが国の学校体育は、生涯スポーツへの志向をますます強め、スポーツライフの創造的学習を目標化する方向を持つが、高等学校の生徒のスポーツ志向は各階層、場面でより一層複雑化し、大学と地域スポーツとの関連においても同様な傾向がみられる。これらの複雑な諸相をどのように生涯スポーツ体系に組み込みながら、多様な施策を展開していくのかが課題となっている。
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