骨格筋の収縮は興奮収縮連関と呼ばれる一連の細胞機能によって極めて精緻に調節されている。この興奮収縮連関の機構は、筋細胞中へ情報伝達を行うT管、筋細胞におけるカルシウム(Ca^<2+>)の貯蔵器官である筋小胞体(SR)及びその両者によって形成されるトライアドという筋細胞内膜系において行われている。最近の顕微鏡技術の急速な発展を背景に、これら一連の筋細胞内膜系を可視化して観察することが可能となり、構造上の特性と機能的な特性の相互関係を検討する試みが開始されている。本研究では、老齢ラット下肢骨格筋を対象として、加齢に伴う筋収縮機能の低下と筋細胞内膜系の構造上の特性を併せて検討することにより、筋細胞の機能的変化と構造的変化の関連性を明らかにし、加えて、運動トレーニングにより加齢に伴う退行性変化を軽減できるか否かを検討することを主たる目的とした。本年度は、老齢ラット(1年齢及び2年齢)の下肢骨格筋(ヒラメ筋及び長指伸筋)における収縮特性の加齢変化と、興奮収縮連関に直接関与する筋細胞内膜系を中心とした構造上の加齢変化の特性を検討した。収縮時間並びに弛緩時間については1年齢と2年齢ラットの間にヒラメ筋及び長指伸筋共に有意な差は認められなかった。また、単収縮張力及び強縮張力についても差は認められなかった。Ca^<2+>感受性は加齢に伴い低下する傾向が観察され、この傾向は特に長指伸筋において顕著であった。一方、両筋共に加齢に伴う超微細構造上の顕著な変化は観察されなかった。筋細胞内膜系を可視化して電子顕微鏡により観察したところ、2年齢ラットにおいてT管走行の乱れ、筋線維の走行方向のT管の増加等の構造上の変化が観察された。今後、3年齢ラットにおいても同様の観察を継続して行い、加えて走行トレーニングによってこれらの退行性変化がどの程度軽減されるかを観察する。
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