1991年から1998年まで文部省科学研究費によって、運動発生問題を取り扱ってきた。これらの研究成果として、運動発生問題はまさに<現象身体>の中で語られることが明らかになった。つまり、運動を覚えると言うことはボイテンディクの言う知覚の構造化を学習者がおこない、シュトラウスの言う動きかたを覚えたときに運動が発生するということである。その知覚の構造化は<現象身体>の中で行われるものであり、決して<対象身体>として考えられるものではない。この<現象身体>の中ではじめて運動発生問題が明らかになると言うことは、自然科学的運動研究とその地盤の違いを示すものである。複雑系として現在自然科学は、人間を単純に物体に置き換えて分析することに多くの矛盾を見いだしている。アフォーダンスも複雑系という人間の運動系から出発した新しい認知科学である。しかし、対象としての身体という考え方に立つ限り、その基礎は二元論と変わりない。動きの発生は自らがその身体を駆使して動きを発生させるのであり、その主体の取り組みはやはりキネステ-ゼの地平で語られる。特に運動発生の次元は、動きつつある今から未来への語らいであり、過去完了の動きについての説明ではない。この動きの発生には、知覚の構造化が必要であり、そこでキネメロディーを奏でられなければならない。このキネメロディーこそが運動発生の中核にあるものである。このキネメロディーを奏でるためのモナドこそ、今後検討されるべき課題であろう。そのモナド、間主観的なモナドが明らかになったとき運動発生の体系は、まったく違う地平で構築されるであろう。
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