本研究は、静的に活動する筋群を増加することにより循環系再調整がどのように行われるかを明らかにすることを目的としている。対象とした運動モデルは静的掌握運動(H)と足底屈運動(P)であり、活動的な女子学生を被検者とした。強度の異なる(15.30.45%MVC)単独のHあるいはPを3分間行わせた時の上腕動脈あるいは大腿動脈血流量(超音波法)は、前者では運動中増加するが後者では45%MVC強度のみで増加した。血流量の増加には、血圧の上昇が貢献していることが示された。前腕・下腿の筋酸素飽和度は強度と比例して低下度が大きくなり、酸素需要と供給とのバランスが崩れることが示唆された。次に、30%MVC強度のP運動を行わせている間に、15%と45%MVC強度のH運動を付加した複合運動を行わせた。H運動の強度が15%MVCの場合には、前腕組織酸素飽和度、血圧、大腿動脈血流量、組織酸素飽和度は単独運動と相違はなかったのに対して、45%MVC運動では、前腕組織酸素飽和度は顕著に低下し、複合運動中の血圧及び大腿動脈血流量は有意に増加した。しかし、血管コンダクタンス(血流量/平均血圧)には変化が見られず、血流量の増加は血圧上昇に依存したものであることが示唆された。大腿動脈血流量の一部である下腿の皮膚血流量(レーザードップラー法)には強度による相違は見られなかったので、大腿動脈血流量の増加は主として皮膚以外の組織で起こったものと考える。しかし、下腿筋の酸素動態は、単独運動、強度の異なる前腕運動との複合運動の間に相違は見られなかった。以上の結果から、単独および複合の静的運動では血圧上昇が血流量増加に最も貢献するが、それは酸素需要を満たすほど血流量を増加させることはなく、また、強度の高い運動との複合運動で増加した血流は、筋の酸素利用に有効に作用したわけではないことが示唆された。
|