高齢者の体力低下に伴い、下肢の筋収縮力の低下に注目し、日常生活行動を支配している神経・筋機能(運動単位)の変容状態と機能低下の実態に注目した。現代の高齢化社会における運動生活の習慣化とプログラミング、そして日常生活動作の独立は高齢化社会においては必須の能力である。その能力の中に平衡能を位置づけ、その必要性と運動処方効果の客観量(定量化)評価を見いだすために実験した。高齢者用の運動強度、頻度、方法の処方箋上の立場から平衡能を研究することとした。そして生活の中に運動・行動を取り入れることによって高齢者の健康保持と同時に脚筋群の収縮力の保持と筋収縮レベルの変化、そして平衡能を制御する運動単位の動員状況の変容を調べ、生活上の転倒事故を予防することを本研究の目的とした。1)健常高齢者の60歳代と80歳代では坐位動揺面積は0.22cm^2から0.47cm^2に増大し、軌跡長は212.9mmから354mmに増加した。また立位では、2.28cm^2から3.90cm^2に、263.1mmから412.9mmへと増加した。姿勢調節機能は加齢とともに低下し、日常生活動作に支障をきたす恐れが生じた。2)日常生活の活動別に見た平衡機能は、積極的な活動群では非積極的な群よりも、6.9%-15%優れていた。3)健常高齢者は片脚立位保持時間と股関節外転筋力の間に有意な相関が見られた。4)高齢者の姿勢調節は神経系の統合機能が影響するが、運動機能のトレーニングと日常生活における運動習慣の確立によって改善される可能性を知った。5)安静時の誘発筋電図M波とその脚伸展力を計測し、筋萎縮レベルと疲労計測を行った。続いてそのM波のスペクトル分析を行い運動単位(MU)を同定し、Slow MUとFast MUの割合を知り、平衡能との相関関係を得た。6)各被験者(60名)の生活内容と運動習慣を一週間にわたって調査し、各人の一日の生活度と運動習慣のレベル評価を行った。そして筋力、パワー、持久力、調整力などをまとめ、全国平均と比較し、高齢者の体力レベルの位置づけを行った。高齢者の脚伸展力と、M波スペクトルの相関を見出し、高齢者筋収縮力と移動能力や平衡能との関係を考察した。7)健常な高齢者の筋収縮モデルを作り、運動処方と日常の運動習慣の効果を考察した。特に筋収縮力と運動単位の動員状態について考察し、実験値のシミュレーションをコンピューター上で行い、そして運動処方の前後において、高齢者の筋収縮の退行変容を観察した。
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