研究概要 |
本年度森川の研究目的は,昨年のドイツ語圏諸国の研究動向に続いて英語圏諸国における再興地誌学の動向をさぐることであったが,それは,森川がセンター長を勤める広島大学総合地誌研究資料センターの仕事にも適合したものである。当初予定していたイギリスへの出張は都合により実現しなかったが,国内において多くの文献を渉猟し,昨年訪ねたオランダ・ユトレヒト大学のフックフェルト教授のご厚意により,ファックスにて何度も意見交換をすることができ,研究発表欄に示すようにある程度の成果をあげることができた. その内容を要約すると,英語圏ではイギリスを中心に社会科学理論を取り入れた地誌学の理論的研究が盛んであるが,それはイギリスの地域構造の顕著な変化を背景としたものであったといえる.しかし,地誌学の研究は実証主義地理学批判として生じたマルクス主義地理学,人文主義地理学,構造化理論,実在論地理学など地理学の流れと平行して進んでおり,地誌学に対するコンセンサスはなく,思想的統一はみられない.しかし,従来の自然との関係を重視した地誌学を脱して社会科学的な研究所に方向づけられている点では共通性があるといえる.そのなかではとくに,ロカリティ研究が有名であるが,事例地域研究にすぎないと批判されたように,地誌学の本流とはいえない.その一方で,上記のフックフェルト教授の研究は方法論に斬新さがみられるので,その方法を詳しく紹介し,私自身のコメントを加えた.それには,今日重視されるようになってきた地域的アイディンティティをいかに扱うかが問題と考えられる. 一方,作野はオランダを中心に新しい地誌書がいかなるテーマを扱っているかを見ることを目的としたが,それよりも伝統的地誌学と新しい地誌学の中心的概念の差異に興味をおぼえ,今年度はその研究を行ってきた.その結果は,地理学のパラダイム変化を踏まえて森川の研究に比較的近いものとなった.
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