本研究は、異なった植生帯に住む人がどのような植生景観を好むのかを明らかにするものである。日本の景観の特徴が多様な植生によってもたらされているという明治時代の外国人の指摘から、まず日本人にとって好ましいと思われる植生景観を確認し、それをもたらしている植物群落景観の構成条件を検討するものである。 昨年度までに、日本で最も多様な植生景観が見られると言われている南アルプス及びその周辺域において、多様な植生を撮影した写真を、長野県、山梨県、静岡県の学識経験者、国立公園管理者、市町村、一般住民に協力を求め収集した。そしてそれらの写真を用い、研究分担者及び、調査協力者が一同に集まり、高度分布による植生群落構成と視点から植生群までの距離を基準に、写真分類を行ない、典型となる植生景観タイプを見いだし、典型となる写真24枚を選定した。 本年度は、これらの写真をアンケート調査用紙に印刷し、また評価の基準について既存の知見を集め、質問用紙を設計した。そして南アルプスに関連がある被調査者として、北岳山荘、北沢峠長衛荘、椹島ロッジに宿泊した登山者と、南アルプスの中に住む長谷村黒河内地区住民、南アルプスを望む伊那市大萱地区住民を対象にアンケート調査を実施した。押出したサンプル数は1006名、調査方法は郵送法と訪問配布法と訪問配布法を用い、691名から回答を得た。これまでに得られた結果は、以下の3点である。(1)高山植物群落や亜高山帯樹林が好まれた。(2)ガレ場、スギ、ヒノキ人工林、照葉樹林が嫌われた。(3)山歩きに対する好み、植物に対する興味、性別、居住場所、居住地の自然植生が植生景観の評価に影響する。
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