研究概要 |
中部山岳地域における山岳永久凍土の分布を明らかにする目的で,北アルプス立山地区と南アルプス間ノ岳地区の二地域を対象に,(1)地温観測に基づく永久凍土の探査,(2)永久凍土の指標となる地形の認定と現地調査,(3)永久凍土の分布域の詳細な地形図の作成,(4)永久凍土帯における地形変動の観測を実施した.各項目に関する研究成果は以下の通りである. (1)各地域において,標高・向き・傾斜・積雪の異なる数地点で,地温の無人観測を実施した結果,北アルプス内蔵助カ-ル内の北向き岩壁直下に積雪底温度(BTS)が-3℃を下回る区域があり,永久凍土が存在する可能性の高いことがわかった.この区域には岩石氷河状の地形が発達している. (2)空中写真から永久凍土の移動によって作られる現成・化石の岩石氷河を抽出した.これらの中には,従来は氷河起源のモレーンとして認定されてきたものが多数含まれており,氷河地形の見直しの必要があることが示唆される.現地では,岩石氷河表面礫の風化皮膜厚を計測し,形成年代の推定を行った. (3)岩石氷河の分布域の1:2,500および1:5,000の詳細な地形学図を作成し,現成・化石岩石氷河の形態と分布が詳しく調査されているスイスの山岳地帯の地形との比較を行った. (4)永久凍土帯における斜面物質移動に関する無人観測を行い,移動速度とその原因について解析した.結果の一部はPermafrost and Periglacial Processes(永久凍土と周氷河作用)誌に掲載された. 1997年2月末にスイスに渡航し,山岳永久凍土研究の世界の第一人者であるチューリッヒ大学地理学教室のビルフリート・ヘ-ベルリ教授を訪問し,1年間の研究成果についてのレビューを受けるとともに,翌年度に予定している永久凍土探査の観測技術を学んだ。
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