研究概要 |
中部山岳地域(北アルプスと南アルプス)における山岳永久凍土の分布を明らかにする目的で,(1)地温観測に基づく永久凍土の探査,(2)空中写真・地形図・現地調査に基づく永久凍土の指標となる地形の認定,(3)永久凍土帯における地形変動の観測を実施した.各項目に関する研究成果は以下の通りである. (1)地温の長期無人観測を実施した結果,北アルプス内蔵助カ-ル内の岩石氷河下に永久凍土が現存する可能性の高いこと,南アルプス間ノ岳の周辺では標高3000mを超える北向きの岩壁に永久凍土が現存する可能性があることがわかった. (2)ヨーロッパアルプスで確立された判定基準に基づいて,永久凍土の移動によって作られる岩石氷河を空中写真を用いて抽出した.これらの多くは化石岩石氷河であるが,その大半は氷河起源のモレーンとして認定されてきた堆積地形であり,氷河地形の見直しの必要があることが示唆された.また,岩石氷河の分布域の1:2,500および1:5,000の詳細な地形学図を作成し,詳細な形態分析を行った.岩石氷河の分布より,晩氷期あるいは最終氷期末期に日本アルプスのかなりの領域が山岳永久凍土帯に属していたことが推定された. (3)永久凍土帯で働く周氷河作用を,地表の季節的凍結・融解層と地中の永久凍土層の各層内で発生するプロセスとに分け,斜面物質移動に関する観測結果に基づいて,各プロセスが引き起こす地形変動の規模と特徴について総括した.最近の温暖化に伴う永久凍土融解の影響についても評価を行った. 以上の成果を地学雑誌(総説一編),Permafrost and Periglacial Processes (永久凍土と周氷河作用)誌(論文二編),国際永久凍土学会予稿集(論文一編)に公表(一部は投稿中)した.
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