平成8年度には次の研究をおこなった。 (1)児童期の理科教育についての制限条件としての認識発達の限界に関する理論上の整理(文献研究)。ピアジェが中心になっておこなった認識の発達に関する研究では、幼児や小学校低学年児童の論理的思考力が非常に低くみられている。一時期、ピアジェの発達理論が学界において優勢になり、その発達段階説を前提として教育課程を編成しようとする動きがでてきたが、その後、ピアジェの発達段階説には、いろいろな批判も出てきて、発達段階説に対する反証も数多く出されている。そこで、それらの諸論文の内容を整理して、現在の発達心理学的研究からみた、理科教育の可能性を探った。その結果、十数年前とは違って、小学校低学年でも理科教育が可能な認識発達の水準に達しているというのが一般的な見解であることが、明らかになった。 (2)児童の科学観の調査。カリフォルニア大学バークレー校のマ-シャ・リン教授の調査にならって、同様の調査を行った。その結果、リンが調べた米国の中学生よりも、我が国の小学生の方が、確かな科学観をもっているらしいということが分かった。 (3)授業という集団的探究場面における児童の科学的探究活動の実態についての調査。授業の観察記録をつくることと、(低学年については理科の授業が現在はないので)すぐれた教師が残している、過去の理科授業における児童の探求活動を分析することの両方のやり方で、心理学者の調査では得られない、集団的探求活動の実態を分析した。集団場面では、一段と高いレベルの認識活動を行っている様子が明らかになった。
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