初年度に続いて、英語科授業において生徒が犯す誤りを教師がいかに扱っているかについて、さらに詳細な分析を行った。教育実習生の授業プロトコルから、さらに以下の点が明らかになった。 英語の授業において、誤りを訂正せず無視することは、特にコミュニケーション活動などにおいては、妥当な教授活動である。つまり場合によって、誤りを無視するという教授行動のオプションを、「意図的に」使い分けることが、教師にとって重要である。 しかし、授業プロトコルの分析の結果、経験の浅い実習生のような教師の場合、必ずしもそうした意図的な使い分けができていないことが明らかになった。誤りは、全体で1.5割無視されていたが、その中には「意図的無視」(positive ignorance)と「見落とし」(recognition failure)の2種類の「無視」があることが分かった。前者は、妥当な教授行動であるが、後者は多くの問題を含んでいる。誤りの「見落とし」の原因として、2つの点が考えられる。第一は、教師の注意不足である。とりわけ教授経験が浅い教師は、教えることで精一杯で、生徒の発話を注意深く聞き、その正確さを判断する余裕がない。第二に、教師の英語力が低く、教師自身の英語文法が誤っている場合がある。 誤りの無視は、基本的に「意図的に」使う限り、妥当な教授行動である。しかし「見落とし」による無視は、指導事項の定着が遅くなったり、生徒に誤った文法を定着させてしまう危険性がある。このことは、教師が生徒の誤りを見落とさない注意深さと、自らの文法力を高める努力が必要であることを示唆している。
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