我が国の家庭科は、平成元年度の学習指導要領の改訂により、漸く中等学校段階での男女共修が制度的に認められることとなったが、家庭科教育の理論は依然として多くの問題を有している。我が国の家庭科を「普通教育としての家庭科教育」としていくためには、アメリカで1960年代以降試みられている家政学を基盤とした家庭科教育の理論の確立が必要不可欠なものと考えられる。この問題意識から、本研究では、アメリカで1960年代以降に行われてきた家庭科教育の現代化の系譜を明らかにし、その中で作成された家庭科プロジェクトを、我が国でこれまで行われてこなかった授業構成レベルで分析し、家庭科教育の理論を明らかにするための以下の3つの示唆を得た。 第一は、1960年代から現在まで継続して作成されている家庭科プロジェクトTeen Guide(1961、1967、1972、1977、1982、1985、1990)の分析から得られた「家庭科教育観の転換」である。特に、1980年代の科学的探求を原理とする「生活科学者」の育成を目的とした家庭科教育の理論は、我が国の家庭科を普通教育としての一教科としていくために有効な理論であると考えられた。第二に、また、それは、平成10年12月に告示された学習指導要領に創設された「総合的な学習の時間」(以下、「総合的学習」)と教科「家庭科」との関係を考える際にも必要不可欠な理論となる。「家庭科」が「総合的学習」と相補的な関係を築け、学校教育の中に教科として存在し続けるためには、家政学を基盤とし、科学的探求を原理とする教科として家庭科を再構築していかなければならないと考えられた。第三は、「家庭科教育の全体構成」と「家族と子供の発達に関する学習」のあり方の問題で、これには多様な教科理論の可能性が考えられるが、いずれも家政学を基盤に家庭科をとらえなおしていくことが必要であることが示唆された。
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