本研究でわたしは、二一世紀の教科指導のあり方を展望しつつ、新しい社会科学習論「子どもとともにつくる社会科学習」をあきらかにしてきた。それは、従来の教師による教科書を使った知識伝達型の授業から、子どもたちの学びたいことを、子どもたちとともに調べることを基調とした課題探究型の授業への転換をめざしたものでおる。そこでの課題意識を明確にするため「『教えるシステム』から『ともに学ぶシステム』への転換」というテーマを設定し、その内容を検討してきた。 「子どもとともにつくる社会科学習」(以下、ともに学ぶ社会科)の基本は、(1)子どもの問いから出発した「学習における個別化と共同化」と、(2)専門家や当事者から学ぶことを基調とした「調べる学習」である。そのときの教師の役割は、(1)子どもに学習の自立のきっかけを与える(生活体験を組織したり交流させる。「生活」の中から問いを発見させる。その上で、情報の源泉に子どもを誘う)(2)謎解き探偵団の団長になる(子どもが専門家や当事者から学んでいる時、教師も同じように学ぶ。探究学習の楽しさを共有する)(3)共同の学びを組織する(自由な表現と意見交流のできる多様な発表の場を設定する) 大月書店刊「【教え】から【学び】への授業づくり4 社会科」(97.1)は、以上を基調とするわたしの提案とそれを受けとめた全国各地のすぐれた実践家の実践で構成されている。 それら「ともに学ぶ社会科」の理論と具体的な実践例を基に、従来の社会科の問い直しと新しい社会科への転換を提起してきた。中でも教材やテーマ選択と追究方法選択を子どもに任せることが何より求められることを強調してきた。教科書による伝達型の授業が支配的な今日の学校で、学習から逃避し学ぶ意欲を示さない子どもたちでも、「ともに学ぶ社会科」の調べる学習では生き生きと学ぶ。それは専門家・当事者の話すなわち「教材のリアリティ」や「語り手のリアリティ」が子どもたちの心を掴んでいるのである。そうした子どもの真剣に学ぶ姿が、実践する教師に確信を与えており、「ともに学ぶ社会科」は全国各地に拡がりつつある。
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