1、昨年に引き続き福岡県那珂川町の岩戸神楽、岩手県遠野市における遠野まつり、さらに大分県姫島における風流、沖縄県沖縄市におけるエイサ-、宮崎県高千穂の夜神楽を音楽的な観点から調査した。調査は祭全体の構造をとらえるとともに、そこで演じられる踊や音楽をビデオやカメラによって撮影した。特に祭に参加している子どもを中心として練習段階から撮影した。また、遠野市、沖縄市、高千穂市における保育園、幼稚園において保育と地域の伝統文化との関連について調査した。その他、文献によって歴史的な背景や地域の特色、文化についての資料の収集を行った。 2、保育内容「表現音楽」の授業における実践 今年度の授業では本研究のテーマに基づいて次の3つの方向からの指導を試みた。(1)遊びの実践、(2)本研究者が撮影した祭をビデオによって音楽および踊を演ずる人の側から説明する。また同時に祭に参加する子どもの行動について理解する。(3)学生の住んでいる地域における祭への参加の奨励および地域の民謡や盆踊をとりあげ実践する。なお実践のなかでは太鼓や笛、鉦等の楽器を伴奏として利用した。 3、まとめ 今回取材した地域はいずれも伝統文化を素朴な形で継承し続けており、町全体の取組が見られる。子どもたちはその環境のなかで自然に祭を受け止め、音楽(おはやし、踊り、かけ声等)も習得している。音楽はその地域の人々の神への畏敬の念や人の幸せを願う気持ち、集う喜び、自然や四季の巡りへの感謝の気持ちを表わしている。表現の方法は地域によって異なるものの、祭に共通しているのは日本人の精神的な物の見方、考え方、行動の仕方ではないかと考えられる。 授業「表現音楽」における実践から、地域における伝統文化を理解する方法の1つとして、祭に参加する子どもの行動を知ることは重要であることが示唆された。学生は祭における子どもの行動を通して自己の子どもの頃の感覚をよみがえらせることが可能になる。そして子どもの頃の感覚を手がかりとして祭が行われる意味や音楽の役割、子どもを理解する方法を学ぶことが出来るように思われる。なお研究の成果については、授業のなかでの実践的な試みの一部を学会において発表し、学会誌に投稿した。
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