研究概要 |
日本語長母音が外国人学習者に習得困難であることはよく知られており、教科書等に「日本語の長母音は短母音の2倍の長さを持つ」といった説明が散見される.また,一部の文献に日本語の長音が短く発音される現象が指摘されている.本研究は聴覚的分析,音響分析,合成音声による知覚実験の3つの手法により,長母音の短母音化現象の実態を明らかにしようと試みた.まず,一人の日本語共通語話者の自然談話録音を聴覚的に分析してみたところ,語頭位置ではほとんど短母音化が起きていなかったのに対して,非語頭位置では長母音の半数近くで短母音化が起きていることが分かった. 続いて行ったカード読み上げによる短文朗読音声の音響分析では,短母音が極めて起きにくいことが分かった.このことは前川が方言音声分析の研究で指摘したのと同じく,「発話のスタイルが音声実現に関係している」ことを示唆していると理解できる. さらに,母音長を段階的に短縮した合成音声による母音長短の強制判断実験では,語頭位置の短縮より語末位置での短縮のほうについて,共通語話者の知覚が鈍いという結果が得られた.
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