平成10年度は3年間の研究期間の最後の年度であった。最終的に、観察を継続的におこなうことのできた被験者は、チャンチャン(中国人児童)、ジョシュア(ニュージーランド人児童)、ベン(オーストラリア人児童)、シジネイ(ブラジル人児童)、そして、ルーカス(ブラジル人児童)の5名であった。ジョシュア(1年間)を除き、残りの4については2年間以上、1-2週間の間隔で継続的に発話データをとり続けることができた。その結果、莫大な量のデータを収集することができ、極めて貴重なものになると確信している。発話データは60分テープ300本に及ぶ。 今年度の研究内容は以下の通りである。(1)夏休み期間を利用して観察データを文字化した。文字化とパソコンへの入力作業は学生に依頼して毎年夏休み期間中におこなっている。文字化作業は終了した。(2)格助詞を構造格(「ガ」と「ヲ」)と内在格(その他の格助詞)に分け、第2言語獲得者が両者を心理的実在として認識しているかどうか分析した。観察結果は第2言語学習者であっても、両者を区別していることが判明した。(3)「ノ」の過剰生成現象の調査。日本語の連体修飾構造において、「大きいノ犬」は非文法的である。この「ノ」の過剰生成は母語を獲得する過程で観察されるが、第2言語の場合でも同様の現象が生じることを明らかにし、それを説明づけた。(4)語順と項構造の省略を調査した。この分析に関しては、2名の英語母語話者のものしか現在までの所終了していない。すなわち、英語は主要部先行型言語であり、日本語は主要部後行型言語である。また、英語は語順の制約が厳格であるが、日本語は語順が比較的自由な言語である。さらに、基本的に英語は項を省略できないが、日本語は文脈が許す限り項を省略できる。このような特色を持つ英語を母語とする子どもが相対する日本語を第2言語としてどのように獲得していくのかを調査した。
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