市街地を対象とした対話型ウォークスルーシステムを実現するためには、対象空間の複雑さに影響されず一定時間での画面描画が要求される。本研究では、まず、3次元仮想世界の中を自由に動き回れる環境を開発した。その環境の中で種々の対話操作を実行するためには、対象画面の複雑さに依存することなく常に一定速度での応答が要求される。しかし、実際に画面に描画すべき対象の複雑さは、視点の移動や回転により変化するため、一定時間での応答を確保するためには、対象の複雑さに応じ、表示物体の個数を変化させる、あるいは、複雑さ自体を変化させる必要がある。本研究では、描画対象である空間中のデータ数だけでなく画面上での図面の専有面積により描画の精度を調整する方式を発案した。まず、膨大な3次元空間オブジェクトを空間データ構造で管理する。ここには、筆者らが開発した空間データ構造MD木を適用した。MD木により空間データを管理することで、総データ数に対し対数オーダで描画領域中のオブジェクトを検索できる。実験によれば、20万個のオブジェクトから描画に必要な200個程度のオブジェクトを検索するために要する時間は、2〜5msecであった。さらに、データの空間情報だけでなく描画における複雑さの情報によってもデータ検索範囲を適応的に変化させることで、描画時間を一定にする。そのために空間位置と複雑さによりデータを分類管理するデータ構造を提案し、描画対象の複雑さによらず一定時間での描画を可能とするアルゴリズムを提案した。さらに、ディスプレイ画面上でのオブジェクトの大きさ(表示サイズ)により、オブジェクトの複雑さを変化させる方式を提案し、試作システムにより有効性を示した。 3次元仮想環境を構築する方式として、地図情報を手がかりとした形状認識、および、対象の3次元計測方式を検討した。地図から平面上での2次元位置を計測し、ビデオ画像、あるいはカメラ画像とのマッチングを取ることで、厳密な3次元計測を行うことなしに、3次元環境を構築する方式を検討し、現在試験システムの設計、開発中である。来年度以降、市街地3次元データを構築するために、地図をベースにした形状入力システムのプロトタイプを開発し、実際の市街地を対象として実験を行う予定である。
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