研究概要 |
人工知能研究のゲーム分野において、チェスに替わる新たな目標とされる囲碁では、チェスに比べて桁違いに探索空間が広く、力任せ探索が利用不可能なので、全く新しいアプローチが必要と考えられる。そこで、人間のエキスパートが持つような多様かつ柔軟な囲碁知識を大量に自動獲得するシステムを構築した。 本研究では、生体情報処理の一種である遺伝的アルゴリズム(GA)からヒントを得た新たな進化的アルゴリズムを提案した。しかし、従来の進化的アルゴリズムは最適解を求めることを目的とするため小数の解に収束しやすい、知識表現が固定化している、などの問題点があった。 本アルゴリズムでは、個々の知識を生態系の個体になぞらえ,その共存を実現するために各個体に活性値を導入した。さらに、柔軟な知識表現を許すために、GAにおける交叉に代わる分裂(split)という新たなオペレータを導入し、徐々に複雑な知識を生成した。その結果、柔軟でありながら大量の知識を獲得することが可能となった。 囲碁の棋譜を用いて本アルゴリズムの評価を行なった。ここではパタン(手筋)が獲得され、更に分裂の際の候補として「何手前の着手か」を加えることにより,定石も獲得された。獲得された知識をエキスパートの評価にかけたところ、全体の6〜8割の知識が有用であると判断された。また、詰碁からの知識獲得を行ないこれを用いて詰碁を解いたところ、人間の初段と同程度のパフォーマンスを示したため、本システムでかなりな程度の知識が獲得されたと考えられる。 本アルゴリズムは柔軟であるため囲碁用語を定義すれば、この用語を用いた知識(格言)が獲得できると期待される。また、囲碁だけでなく他の分野、たとえば、データマイニングなどにも応用可能である。
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