研究概要 |
″発見″のプロセスを,心理学や人工知能の分野で確立されつつある「問題解決」や「知識獲得」の理論的枠組みを拡張することを通して説明しようとする地道な探求が続けられている。本研究は,主にそのようなプロセスに現れる「複数の人間の″インタラクション″」に着目して,これまでの研究成果を一層進展させることを目的として行なわれた。本研究の成果は,次の3点にまとめられる。 (1)科学的発見や科学的概念の学習プロセスを「認知心理学的実験」に基づいて分析した。具体的には,「遺伝の法則」「力・運動概念」「概念同定」「類推の研究で用いられてきた放射線問題」等を課題に取り上げ,問題解決や学習のプロセスを,主にプロトコル分析に基づいて検討した。例えば,「遺伝の法則」を2人の高校生が共同発見学習するプロセスを詳細に分析し,三つのアブストラクトのレベル(1発話を単位とするレベル,意味的なまとまりを単位とするレベル,複合的な意味のまとまりを単位とするレベル)を設定することによって,それぞれのレベルで見えてくるプロセスの特徴,さらにレベル間の関係を明らかにし,より有効な学習が行なわれるためのいくつかの要因を同定した。(2)科学的発見のプロセスを,「計算機シミュレーション」に基づき検討した。具体的には,科学的発見の領域で長い間取り上げられてきた「Wasonの2-4-6問題」を解決するプロダクションシステムを構築し,旧来,心理的な実験に基づいて提起されてきた仮説検証に関する知見を,構成的な方法に基づいて再検討した。その結果,例えば,positive test strategyの有効性が環境に依存すること,diagnostic test strategyの有効性等について,より明確な説明を加えることが可能になった。(3)学習者の認知的プロセスにより深くコミットする科学的概念の学習を支援するシステムの構築を行なった。そこでは,支援システムを,「準備段階」「開発段階」「評価段階」に分けて実装してゆく必要性が提案され,具体的に,電気回路の学習を支援するシステムの開発を行ない,その有効性を確認した。
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