本研究では、社会システムにおけるジレンマ的状況での主体間の合意の形成とその安定性、及び合意遂行のための外的強制力の必要性を、特に囚人のジレンマおよび複占企業間の競争におけるジレンマに論点をしぼって考察した。 詳しくいうと、これまで協力ゲームの解として考えられて来た「安定な行動基準」の考えを、各主体の先を見通した行動が考慮できるよう修正した上で上記のジレンマ的状況の分析に適用し、各主体が安定な行動基準にしたがって行動した場合、従来の非協力ゲームおよびナッシュ均衡による分析では明らかにし得なかった以下の結果が導かれることを示した。 (1)選択肢が「協力」と「裏切り」の二つしかない囚人のジレンマでは、2人の主体が(協力、協力)か(裏切り、裏切り)を取り合う状態が安定になる。もし、両主体が話し合うことが可能であれば、たとえ合意に強制力がなくとも、(協力、協力)の状態のみが安定な状態として達成される。選択肢がより多くなった場合には、さまざまな状態が安定になりうるが、両主体が話し合うことが可能であれば、たとえ合意に強制力がなくとも、パレート最適な状態のみが安定な結果として得られる。 (2)複占企業間の競争では、たとえ両企業間での話し合いがなくそれぞれ独立に価格、生産量を決定する場合でも、パレート最適な状態のみが安定な結果として得られる。
|