研究概要 |
原子力発電や核融合研究の進展に伴い,環境中のトリチウム(T)の増加が予想される。Tは,水蒸気中のプロチウム(H)と入れ替わりHTO分子となって行動することが多く,生態系への影響が懸念される。従って,「T汚染増加」に向けた対策を講じることは重要である。そこで,種々の官能基へのTの影響を定量的に明らかにすることを本研究の目的とした。 2年間の研究は大きく次の二つに分けられる。(1)固体物質中の各種官能基の反応性を明らかにするため,未標識化合物やT標識化合物を使い、種々の水素同位体交換反応(T-for-H交換反応)を固気系(及び固液系)で温度を変えて観測した。得られた観測データを,以前提出したA"-McKayプロット法を使って解析した。さらに,原子団としての同位体交換反応(OP-for-OH交換反応)についても,陰イオン交換樹脂とHTO水とを使って観測した。(2)異なる2種の官能基を持つ物質の反応性の同時解析を行い,それぞれの官能基の反応性を明らかにした。また,T標識高分子のTが大気中に散逸する様子を温度や湿度を変えて調査した。 以上の結果,次のことなどが定量的に明らかとなった。1.各種官能基を持つ物質とHTO蒸気との間で,T-for-H型の反応が起こり,その程度は物質や官能基によって異なる。2.A"-McKayプロット法を使うことで、異なる2種の官能基を持った脂肪族化合物の反応性を求めることができる。3.陰イオン交換樹脂において,OT-for-OH型の反応が起こる程度は,強塩基性のものの方が弱塩基性のものよりも大きい。4.OT-for-OH型の交換反応は,T-for-H型の交換反応よりも起こり難い。5.T標識高分子化合物表面からのTの散逸の程度は,一般に湿度の影響は受けず,温度の影響を受ける。6.本研究で得られた結果は,T汚染防止のため基礎データになる。
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