本研究で目ざす底泥生態系の富栄養化制御に果たす役割について基礎知見を得るため、琵琶湖の南湖盆、北湖盆、および内湖の曽根沼を主研究地域として、平成8年度に1-2カ月置きに3回の調査を行い、コアサンプラーで成層構造を破壊しないように静かに採取した底泥資料について、脱窒とメタン生成に関わる微生物と有機物について、それらの変動と相互の関係を調べた。底泥試料の炭素、窒素含量は、曽根沼、北湖盆、南湖盆の順に高かった。富栄養化度が低く有機物の一次生産活性の低い北湖盆底泥試料が、富栄養化度の高い南湖盆より有機物含量が約2倍高い事は、両湖盆における浄化能力の差異を伺わせる。脱窒とメタン生成に関わる上層の酸化層と下層の還元層の発達は北湖盆で明瞭で、酸化層で有機物含量が高かった。これは、生産の低い北湖盆でも常に上層よりの有機物供給が活発である事を示唆する。各地点とも、冬期に炭素、窒素含量が増加し、C/N比が下がる傾向が明瞭であり脱窒とメタン生成に関わる微生物活性の活発な事を伺わせた。底泥の浄化能力に大きな役割を演ずる酸化層の微生物量についての調査では、とくに還元的代謝を促進する能力のある繊毛虫類が10-10000ind./gdryの範囲で検出され、とくに表層で密度が大きく、直上水と比較してもその密度は高かった。底泥の有機物と繊毛虫類の密度の間には、非常に高い正の相関があり、有機物含量の高い底泥表層が微生物代謝活動による浄化活性の高い事を伺わせた。現在、これらの基礎知見をもとに、現地調査と室内実験により、脱窒とメタン生成活性がこれらの微生物要因とどのように結びついているかの解析を進めている。
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