本研究では、地質学的に認定される旧海面高度の観測値とハイドロアイソスタシ-の変動モデルから導かれた理論値(既存データ)とを比較しながら、いくつかの地域で完新世の相対的海面変動を考察した。 本研究において得られた成果は以下のとおりである。 1.堆積物中の珪藻遺骸群集は、旧海面高度を地質学的に認定する際の良い環境指標である。日本では、完新世海進時の海成層中に干潟環境を特徴づける未同定の珪藻はしばしば出現する。本種は、完新世海進時の日本の海岸低地に広く分布し、旧海面高度の観測値を得るための良い環境指標であることを明らかにした。 2.北海道オホーツク海沿岸藻琴地域において、堆積物の珪藻遺骸群集にもとづき、完新世中期〜後期の堆積環境を明らかにするとともに、完新世中期の旧海面高度の観測値を認定した。 3.北海道礼文島北部に位置する久種湖において、堆積物の珪藻遺骸群集とイオウ含有量にもとづく旧海面高度の観測値と、ハイドロアイソスタシ-の変動モデルから導かれた理論値とを比較しながら、完新世の海面変動と砂州形成に伴う湖の形成史を明らかにした。本論文において、砂州の発達により、完新世中期以降の海面変動の記録が得られない具体的事例を報告した。 4.北海道オホーツク海沿岸網走から斜里地域にかけての海岸低地において、掘削による地質調査を実施し、泥炭層が形成しはじめる層準の標高と年代を比較した。その結果、泥炭層の集積層準は藻琴地域で高くなる傾向を示した。 5.兵庫県赤穂平野においても完新世中期から後期にかけての相対的海面変動を考察した。
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