研究概要 |
淀川左岸側支川の天野川流下過程(上・中・下流の3地点)調査で物質収支法による農薬変化量と,河床付着生物膜の現存量と剥離流出量を定量し,水質変化量への付着生物膜の寄与を評価した。栄養塩・有機物質濃度レベルが比較的高い状況下において,5月中旬〜8月上旬の潅漑期間で5月下旬の水稲移植前後の除草剤から殺虫剤・殺菌剤の散布時期と,8月下旬〜12月中旬の非潅漑期間に分けて3日に1度の頻度で調査を実施した。市街地部を貫流する中・下流区間は流下河床は拡大し,家庭雑排水・工場排水由来の有機物質の負荷も多く,河川水中の一般細菌数や河床付着生物膜の現存量も多い。水田は中流地点上流側のみに存在するため,中・下流区間(1.2km)^4での農薬変化量は,化学的変化と微生物による分解や吸着等による変化によるものである。殺虫剤のMEPが中流での負荷量に対して下流で13%,殺菌剤のピロキロンが68%,除草剤のエスプロカルブが97%,殺虫剤のBPMCが99%に減少していた。 一方,殺菌剤のIBPやイソプロチオラン,除草剤のメフェナセット,ベンチオカーブおよびシメトリン,殺虫剤のダイアジノンは,濃度ピーク時と採水のタイミングずれ等もあって,下流で若干負荷量増加した形となり,短い流下過程での分解減少に大きく期待できない結果となった。河床に敷設した素焼きタイルの人工付着板上での付着生物膜中の農薬の濃度も観測したところ,除草剤のエスプロカルブが上・中流ともに10ppb前後,殺菌剤のIBPが5ppbの高濃度で検出され,農薬の種類によっては生物膜中に取り込まれていることが明らかとなった。殺菌剤は付着生物膜の細菌層に,除草剤は付着生物膜の藻類層に生長阻害の影響が考慮される。全般に,上・中流境界の山地部から洪水時に供給される砂が河床のレキを覆い,付着生物膜の増殖を妨げる傾向にあり,流下過程での化学物質の分解には十分な環境条件とはなっていなかった。
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