研究概要 |
平成8年9月2日より6日まで釜石鉱山において、立坑内に人工雲を発生させ、これに向けて二酸化硫黄を放出する実験を合計3回行った。今回は坑底にブロワ-を設置して二酸化硫黄を強制的に拡散させ濃度の均一化を図った。放出量は平均0.5l/min、坑底での濃度は約30ppbであった。観測用エレベータ-に搭載した二酸化硫黄濃度計により濃度の鉛直プロファイルを調べたのは前回(平成5〜6年一般研究(B))と同様であるが、濃度計の時間応答性にとくに注意を払ってエレベータ-運行プログラムを設定した。得られたプロファイルから二酸化硫黄の雲への取り込み(レインアウト)速度に関する結果の再現性をチェックした。また新しい試みとして坑底にレーザーレーダーを設置して雲底高度の時間変化を追跡した。その結果、雲底は平均して約100mの高度にあるが、低いときは40m、高いときには160mと大きな幅で変動していることが明らかとなった。これとは別にエレベータ-に載せたビデオカメラによる目視観測結果を合わせ考えると、上記雲底高度のみかけ上の変動は、必ずしも雲生成高度の変動を意味するのではなく、雲粒濃度の空間分布がかなり不均一で、1mあるいはそれ以下のスケールの塊状になっていることによるものと考えるのが妥当であるとの結論に達した。雲あるいは霧がこのような不均一構造をもつことは定性的にはこれまで多く指摘されてきたことであるが、定量的解析に耐えるデータは極めて少ない。今回得られたデータは雲粒の生成・拡散・凝集過程を複雑系として解析する可能性を与えるものとして価値がある。さらに、採取した雲水をイオンクロマトグラフィーにより組成分析し、SO_4^<2->、NO_3^-,Cl^-,Na^+,K^+,Mg^<2+>,Ca^<2+>等の濃度を求めた。SO_4^<2->は最高10ppmに達し液相熱反応によるS(IV)→S(VI)の酸化反応が裏付けられた。また、雲核として作用する無機塩類濃度に関する知見が得られた。
|