細胞の放射線感受性を規定するヒト遺伝子には、齧歯類細胞との種間相補で実験的に得られた8個のXRCC遺伝子群とATM遺伝子がある。ATM遺伝子は放射線高感受性を特徴とするヒト遺伝病アタキシア・テランジェクタシアの病因遺伝子である。ATM遺伝子の座位する第11番染色体上にはこれと類似の機能をもつ遺伝子がある可能性があり、米国での研究でATM座位の近傍に別の放射線感受性遺伝子があることが示唆された。本研究は11番染色体の種々の異なった領域を含む放射線ハイブリドパネルを用いてこの仮説を検討するとともに、A-T患者においてATM遺伝子の突然変異を調べることにより、ATM変異と放射線感受性との遺伝子-表現型解析を行った。用いたハイブリドパネルは我々がX/11転座染色体を用いて作成し、ATM遺伝子の近傍約5メガベース領域内に異なった切断点をもつクローンを選び出したものである。SV40で不死化した2系のA-T細胞株を受容細胞に、総計21の11番微小断片をもつクローンを単離し、放射線感受性、マイクロサテライト法による導入断片マッピングの2つの指標で調べた。放射線抵抗性を獲得した12クローンは1例を除き、D11S144〜D11S1343を保持しATM領域と一致したが、1例はATM領域を欠失していた。このクローン中のマウスDNAを解析したところ、ヒトATMのマウスホモログAtmがこの相補効果の原因であることがわかった。また日本人A-T患者のATM変異を制限酵素フィンガープリント法で解析し、患者の放射線感受性形質が全てATM上の遺伝子変異に起因することを見出した。本研究でATMが放射線感受性遺伝子であることを確認できたことで、感受性形質を決定する遺伝子変異の特異性を解析する研究に着手している。経費はハイブリド実験のための培養用消耗品とハイブリドクローンおよび変異検出のための薬品、酵素を主とする遺伝子解析用消耗品に用いた。
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