ATM遺伝子は放射線高感受性を特徴とするヒト劣性遺伝病アタキシア・テランジェクタシア(AT)の原因遺伝子である。本研究は11番染色体の種々の異なる11q22-23領域を含む放射線ハイブリドパネルを作成し、これをA-T細胞に導入してA-Tの放射線高感受性を正常化する11番染色体上の領域とATM遺伝子を含む領域とが一致するかどうかを実験的に検討するとともに、ATM遺伝子を対象として-T患者における突然変異の解析とヒトゲノム内でATMとの類似配列の探索を行うことである。ヒトのX/11転座染色体を用いて23個から成る11q22-23放射線ハイブリドパネルを作成し、ATM座位近傍に切断点を持つ6個のクローンを同定した。その1つであるM3.6クローンを用いて、これをA-T細胞株に導入する実験を行った。放射線抵抗性を獲得した12クローンは1例を除き、D1S1343〜D11S144領域を保持しATM領域と一致したが、1例はATM領域を欠いていた。このクローン中のマウスDNAを解析したところ、ヒトATMのマウスホモログAtmがこの放射線抵抗性の原因であることがわかった。これらの結果はATMが放射線感受性遺伝子であることを機能面で裏付けると共に、マウス相同遺伝子が同じ相補活性をもつことを証明した。制限酵素フィンガープリント法で日本人のA-T患者のATM遺伝子を解析した結果、全ての患者で遺伝子変異を見いだし、これが病因変異となっていることを確認した。またATMをプローブにしたサザンブロット解析からは、11番以外のヒト染色体7番、9番、10番染色体上並びに11番染色体上の11q23-ter領域にATMの交雑配列の存在を見いだした。これらはATMと類似の機能をもつ新しい遺伝子である可能性がありその同定に着手している。
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