ミジンコ(Daphnia magna)の発生過程における環境毒性物質の影響を高感度で効率的に評価するための手法を開発、普及させることを最終的な目標として、そのための基礎的データを集積する目的で研究を行った。 1.卵のin vitroでの孵化に対する水温、水質など環境要因の影響を詳細に調べ、再現性のよい標準培養条件を検索した。その結果、Elendt M7培地を用いて23℃で培養することにより、安定して95%以上の孵化率を達成することが出来た。 2.毒性物質の作用の解析のため、産卵直後の卵(Stage 1-2)を育房から取りだしてマイクロプレートに移しin vitroで培養した。数種類の毒性物質について、これを培養開始時に添加して発生孵化過程に対する毒性を観察した。発生途中で死亡する卵の割合と、孵化した個体の形態的異常等を調べた。 3.水道水の塩素処理過程で副成物として生成することが知られている、変異原性を有する化合物MXの毒性について調べた。致死濃度を幼若個体と卵とで比較した結果、ほぼ同程度であることが判明した。MXの作用によると考えられる遺伝的変異はこれまでのところ観察されなかった。 4.アミノプテリン、メソトレキセート、エチレンチオウレアなどの催奇形誘発剤の作用について検索した。アミノプテリン、メソトレキセートによる奇形の誘発は検出できなかったが、エチレンチオウレアを20-40μg/mlの濃度で作用させると体殻の変形した個体の出現が有意に増加した。これらの形態異常をもつ個体は脱皮が出来ないために生存できないが、殻の形態異常は毒性検出法の指標の一つになると考えられた。
|