研究概要 |
近年,湖沼の富み栄養化が一段と進み,OscillatoriaやNostocなどの糸状藍藻類の異常発生が見られるようになってきた。特にイギリスや北欧の淡水湖沼や汽水域で異常発生が頻発しており,その毒素によってヒトの健康被害や家畜の大量斃死が起きている。本邦でも霞ケ浦っうをはじめ,富栄養化の進んだ湖沼ではOscillatoriaの大量発生が恒常的におきている。本研究ではヨーロッパおよび日本で異常発生するOscillatoriaやNostoc等の有毒糸状藍藻類の生産する毒素の化学構造,作用機作を解明し,有毒糸状藍藻類の被害の防止に役立てることを目的としている。初年度はイギリスで淡水湖沼から汽水域まで広く繁茂しているNostocの有毒成分の単離・構造決定を行なった。本Nostocはかび臭ジオスミンを発生し,強い毒性があると言われている藍藻である。約30gの凍結乾燥藻体から有毒成分を抽出し,逆相HPLCで分画し,4種類の有毒成分を単離精製した。FABMS,NMRおよびアミノ酸の光学異性体分析から3種類は新規ミクロシスチン同族体([Asp^3,ADMAdda^5,Dhb^7]microcystinRR,[Asp^3,ADMAdda^5,Dhb^7]micorcystinHtyRおよび[Asp^3,ADMAdda^5,Dhb^7]microcystinLR)であった。デヒドロブチリン(Dhb,2-amino-2-butenoic acid)を含むミクロシスチン同族体の発見は当研究室が最初であった。もう一つの有毒成分は新機構造のサイクリックデプシペプチド(Nostocyclinと命名)で分子内に3-amino-6-hydroxy-2-piperidone(Ahp)を含む構造を示した。アミノ酸配列ははHpl-Ile-Hse-Thr-Hse-Ahp-Phe-N-MeTyr-Valであり,Thrの水酸基とC-末端のValのカルボキシル基がエステル結合している構造であった。本ペプチドはミクロシスチンと同様にプロテインホスファターゼを阻害した。
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