研究概要 |
近年,ヨーロッパの湖沼では,Nostocと同じ糸状藍藻類であるOscillatoriaの異常発生が見られるようになってきた。特にイギリスや北欧の淡水湖沼や汽水域で異常発生が頻発しており,その毒素によってヒトの健康被害や家畜の大量斃死が起きている。本邦でも霞ヶ浦をはじめ,富栄養化の進んだ湖沼ではOscillatoriaの大量発生が恒常的におきている。本研究では昨年のNostoc sp.の毒素の研究に続いて、ヨーロッパおよび日本で異常発生するOscillatoriaの毒素の化学構造に関する研究を行った。ヨーロッパおよび日本で最も頻繁に発生する糸状藍藻類はOscillatoria agardhiiである。本研究では無菌株(CCAP1459/22)およびスコットランドの湖沼に発生するOscillatoria agardhiiのBloomを用いた。約10gの凍結乾燥藻体から有毒成分を抽出し,逆相HPLCで分画し,4種類の有毒成分を単離精製した。FABMS,NMRおよびアミノ酸の光学異性体分析を行った。CCPAの株からは2種類の新規ミクロシスチン同族体([Asp3,(E)-Dhb7]microcystinHtyRおよびLRが同定された。一方、スコットランドのBloomからは[Asp3,(Z)-Dhb7]microcystinHtyR及びLRが同定された。デヒドロブチリン(Dhb,2-amino-2-butenoic acid)の幾何異性体の発見はこれらを生産している株の生合成に関与する酵素((Z)-DhbはThrのトランス脱水素反応によって、(E)-Dhbはallo-Thrのトランス脱水素反応または(Z)-Dhbの異性化によって生成する)の違いによるものと考えられる。 本邦の株からはDhbを含むような構造のmicrocystinは検出されなかった。また、これまでの分析ではDhbを含むmicrocystinsを生産する糸状藍藻類は北部ヨーロッパに限られる。このことは、有毒藍藻が地域環境により異なる進化を遂げたことを示すものと考えられた。
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